乳がんに対する汎用性の高いT細胞療法につながる、MR1分子特異的なT細胞受容体の取得に成功
抗体取得・TCR解析部門|2024.11.12

体の中に生じたがん細胞などの異常細胞を除去するため、T細胞はT細胞受容体(TCR)と呼ばれるセンサーを利用して、がん細胞で特異的に発現するがん抗原を載せた主要組織適合性複合体(がん抗原/MHC)を認識することで、がん細胞を見つけ攻撃し体内から取り除きます。このがん抗原/MHCを特異的に認識するTCRを持つT細胞の数が限られているため、がん患者の体内ではがん細胞が増殖してしまいます。そこでこのがん抗原/MHCを特異的に認識するTCRの遺伝子を取り出し、正常なT細胞に導入することで、より効果的にがん細胞の除去を目指すのがTCR-T療法で、世界的な開発競争が行われています。しかしMHCの型はABO血液型よりも遙かに多様に存在し、MHC型がTCRと対応する一部の人にしかこのTCR-T療法が有効でない(MHC拘束性)という大きな欠点が存在します。そこで我々は個人間で共通するMHC関連分子(MR1)に拘束性の新しいTCRに注目し、解析を進めました。乳がん患者の腫瘍に浸潤していたT細胞から取得したMR1拘束性のTCRは乳がん細胞株に反応しましたが、正常な乳房細胞には反応しませんでした。また、これまで報告のあったMR1拘束性TCRの抗原には反応しなかったことから、これまで報告のない新しいTCRの可能性が示唆されました。このTCRを応用することで、多くの乳がん患者に使用できるTCR-T療法を開発できる可能性が開けました。
論文
(*責任著者)