経鼻免疫により鼻粘膜に誘導される分泌型IgA抗体がウイルス感染を抑制する機構をモノクローナル抗体レベルで解明
抗体取得・抗体多様性解析部門|2025.6.24

鼻腔に病原体由来の抗原を摂取する経鼻ワクチンは、感染防御と重症化予防の両者を兼ね備えた次世代ワクチンとして、その効果が期待されています。黒澤らのチームは、富山県衛生研究所との共同研究で新型コロナウイルス由来タンパク質を経鼻免疫したマウスから抗原特異的モノクローナル抗体を大規模に取得することで、経鼻ワクチンが鼻粘膜上に分泌型IgA抗体を誘導すると共に、血液中にも抗体を誘導できること、さらに分泌型IgA抗体が高い抗ウイルス活性を持つことをモノクローナルレベルで明らかにしました。
われわれは、マウスの鼻粘膜のような微量組織からでも多数の抗原特異的モノクローナル抗体を短期間で作製するための技術を開発し、これを用いて新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を経鼻免疫したマウスから、数百種類のモノクローナル抗体を単離しました。取得された抗体の遺伝子配列解析により、鼻粘膜由来の分泌型抗体と非粘膜組織由来の単量体抗体が、鼻粘膜組織で抗原刺激を受けた共通の細胞に由来する抗体産生細胞から作られていることを見出しました。これらの結果から、経鼻免疫によって、粘膜組織での抗体応答のみならず非粘膜組織における抗体応答も誘導できることを、世界で初めて分子レベルで明らかにしました。
さらに、単量体ではウイルス中和活性を示さない抗体であっても、これらを分泌型抗体に変えることで、ウイルス中和活性が惹起されることを証明しました。この中和活性の増強効果は、単量体抗体が2箇所の抗原結合部位しか持たないのに対し、分泌型抗体では4〜8箇所の抗原結合部位を持つようになることで、発揮されたと考えられます。更に、ハムスターに予防薬として分泌型抗体を投与すると、新型コロナウイルス感染によって引き起こされる体重の減少を低減できることが分かりました。
本研究の成果は、従来の注射型ワクチンには見られない経鼻ワクチン特有の作用機序の一端を明らかにしたものであり、経鼻ワクチンのメカニズムをさらに理解する上で重要な知見を提供しています。
論文